税理士事務所は所員何名から「税理士法人」になる?
税理士事務所に勤務している人や、これから税理士として独立を考えている人の中には、「税理士事務所は何人くらいになると税理士法人になるのだろう?」と疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。
一般企業では、従業員数が増えて会社として規模が大きくなれば、組織形態について検討する機会も増えていきます。しかし、税理士事務所の場合は、所員が何名になったら自動的に税理士法人へ移行する、という仕組みではありません。
ここで非常に重要なのが、「所員の人数」と「税理士法人を設立するために必要な人数」は別だということです。
現在の制度では、税理士法人を設立するためには、原則として2人以上の税理士が「社員」となることが必要です。国税庁の税理士法基本通達でも、税理士法人の設立には2人以上の社員が必要とされています。
つまり、「所員が10人になったら税理士法人になる」というような明確な人数基準があるわけではありません。
では、そもそも税理士法人とはどのような組織で、個人経営の税理士事務所とは何が違うのでしょうか。
ここでは、税理士法人になるための条件や、法人化するメリット・デメリット、勤務税理士の立場の違いなどについて詳しく解説します。
税理士事務所は所員何名から税理士法人になる?
まず結論からいうと、一般的な「所員数」による基準はありません。
税理士法人を設立するうえで重要なのは、事務所全体の従業員数ではなく、「社員税理士」が何人いるかという点です。
税理士法人は、複数の税理士が社員となって設立する法人です。国税庁も、税理士法人について「複数の税理士が社員となり定款を定めて登記することにより設立」すると説明しています。
したがって、例えば、
- 税理士1人+職員10人
- 税理士1人+職員20人
- 税理士2人+職員3人
- 税理士3人+職員30人
という税理士事務所があった場合、人数だけで考えると大きく違いますが、税理士法人を設立するためのポイントは職員数ではありません。
税理士法人の設立には、原則として2人以上の税理士が「社員」となる必要があります。
逆にいえば、所員が何十人いても、社員税理士が1人しかいなければ、その人数だけを理由として税理士法人になるわけではありません。
「社員」と「所員」はまったく違う
税理士法人を理解するうえで、特に混同しやすいのが「社員」という言葉です。
一般的には「社員」というと会社に雇用されている従業員をイメージします。
しかし、税理士法人における「社員」は、一般企業の従業員という意味ではありません。
税理士法人の「社員」とは、法人の構成員となる税理士を指します。
そのため、税理士事務所に勤務している職員が何十人いたとしても、その人たちが「社員」になるわけではありません。
例えば、
「代表税理士1名」
「勤務税理士3名」
「無資格職員10名」
という事務所があったとしても、税理士法人の社員が誰なのかは別途決める必要があります。
勤務税理士がいるからといって、自動的に税理士法人になるわけではありません。
この「社員」という言葉の違いを理解することが、税理士法人について考える最初のポイントです。
税理士法人を設立するには税理士が2人以上必要
税理士法人を設立するためには、原則として2人以上の社員税理士が必要です。
国税庁の税理士法基本通達第48条の8関係でも、「税理士法人の設立には、2人以上の社員が必要」と明記されています。
つまり、最も小規模な税理士法人の形を考えると、
- 社員税理士A
- 社員税理士B
という2名の税理士が社員となり、そこに職員や所属税理士などが加わる形になります。
そのため、「税理士事務所を法人化したい」と考えている所長税理士が一人だけの場合には、もう一人、社員として加わる税理士が必要になります。
この点は、一般の株式会社などとは大きく異なるポイントです。
所員が多くても「税理士法人」ではないケースがある
例えば、代表者である税理士が1人で、会計スタッフや税理士補助などを20人ほど雇用している税理士事務所を考えてみましょう。
一般的な感覚であれば、20人の職員がいればかなり大規模な事務所に見えます。
しかし、社員税理士が1人であれば、所員数が多いことだけを理由に税理士法人になるわけではありません。
反対に、税理士2人と少人数の職員で運営している事務所でも、要件を満たして税理士法人を設立することは可能です。
つまり、
「規模が大きいから税理士法人」「小さいから個人事務所」という単純な区分ではありません。
税理士法人にするかどうかは、事務所の経営方針や将来の事業展開、複数の税理士による経営体制などを踏まえて判断することになります。
個人経営の税理士事務所と税理士法人の違い
では、個人の税理士事務所と税理士法人では、何が違うのでしょうか。
個人の税理士事務所では、基本的に開業税理士である所長が中心となって事務所を運営します。
一方、税理士法人では、複数の税理士が「社員」として法人の構成員となり、法人として税理士業務を行います。
そのため、税理士法人には「代表社員」などの法人としての役割が存在し、個人事務所とは経営上の仕組みも異なります。
また、税理士法人の社員税理士は、個人として税理士法人の業務範囲に属する業務を行ったり、他の税理士法人の社員になったりすることが禁止されています。国税庁も、社員税理士の競業禁止について説明しています。
つまり、単純に事務所の名前を法人化するだけではなく、経営や業務の責任を複数の税理士で共有する仕組みが税理士法人の大きな特徴です。
なぜ税理士法人にするのか?
では、わざわざ個人事務所から税理士法人へ移行するメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
一番大きな理由の一つは、複数の税理士による組織運営がしやすくなることです。
個人事務所の場合、所長税理士一人に経営や顧問先との関係、税務判断などが集中しやすくなります。
一方、税理士法人として複数の税理士が社員になれば、複数の税理士による組織として事業を継続していく体制を作ることができます。
例えば、
- 複数の税理士で顧問先を分担する
- 専門分野ごとに担当を分ける
- 後継者となる税理士を経営に参加させる
- 支店などを展開する
- 組織として採用を行う
といった経営を考えやすくなります。
税理士法人は事業承継の選択肢にもなる
税理士事務所の経営者にとって、大きな問題の一つが事業承継です。
所長税理士が高齢になったとき、
「誰に顧問先を引き継ぐのか」
「職員をどうするのか」
「事務所の名前や信用をどう引き継ぐのか」
といった問題が発生します。
個人事務所の場合、所長本人への依存度が高くなりやすいため、引退時に事業をどのように引き継ぐかが大きな課題になります。
一方、税理士法人の場合は、複数の社員税理士によって法人を運営する形になるため、個人一人に依存しない組織作りを進めやすいという側面があります。
もちろん、税理士法人にしたから事業承継が自動的に解決するわけではありません。
しかし、将来的に後継者となる税理士を社員として迎え入れ、組織として事業を継続していくための仕組みを作ることは可能です。
税理士法人にすることで採用面でも変化がある?
税理士事務所の採用においても、法人化が一つの選択肢になることがあります。
税理士法人という組織形態になることで、
「複数の税理士がいる」
「組織として運営されている」
「将来的にキャリアアップできそう」
といった印象を持つ求職者もいるでしょう。
特に、税理士業界では長期的なキャリアを考えて転職先を選ぶ人も多いため、組織としての将来性や教育体制などは求人への応募を検討する際の材料になります。
ただし、税理士法人であることだけで採用力が高くなるとは限りません。
実際には、給与や働き方、担当業務、教育体制、資格取得支援、残業時間など、さまざまな条件を総合的に考える必要があります。
税理士法人なら支店を設けやすい
税理士事務所の規模が大きくなると、他の地域への進出を検討することもあります。
個人の税理士は、税理士業務を行うための事務所を2か所以上設けることができないとされている一方、税理士法人では主たる事務所に加えて従たる事務所を設けることができます。
ただし、従たる事務所にも社員税理士を常駐させる必要があります。国税庁の基本通達でも、各事務所に1人以上の社員税理士を常駐させる必要があることが示されています。
そのため、
「東京と大阪の両方に拠点を持つ」
「複数の地域に事務所を展開する」
といった事業展開を考える場合には、税理士法人という形態が選択肢になることがあります。
ただし、支店を設ける場合には、それぞれの拠点に必要な社員税理士を配置する必要があります。
税理士法人にするデメリットや注意点
税理士法人にはメリットがある一方、法人化すれば必ず良いというものでもありません。
最も注意したいのは、社員税理士を複数人確保し続けなければならないことです。
税理士法人の設立には2人以上の社員が必要ですが、設立後に退職や死亡などによって社員が1人になる場合があります。
この場合も永久に1人のまま運営できるわけではありません。
税理士法では、社員が1人になった場合、その日から引き続き6か月間、社員が2人以上にならなければ、その6か月を経過した時点で税理士法人は解散することとされています。
つまり、税理士法人では「社員税理士の後継者問題」が非常に重要になります。
社員税理士が1人になったらどうなる?
例えば、社員税理士2人で税理士法人を経営していたところ、一人が引退したとします。
その結果、社員税理士が1人だけになったとしても、その瞬間に税理士法人が消滅するわけではありません。
ただし、6か月以内に社員を2人以上の状態に戻せなければ、解散につながります。
このため、
- 所属税理士などから新たな社員を迎える
- 外部の税理士を社員として迎える
- 他の税理士法人との統合などを検討する
- 個人事務所への移行を検討する
など、早い段階で今後の方針を決める必要があります。
特に所長の引退が近い税理士法人では、「引退するときに考える」のではなく、数年前から後継者や組織体制について検討しておくことが重要です。
「所員が2人」なら税理士法人にできるわけではない
今回のテーマで特に誤解されやすいのが、この点です。
例えば、
「税理士1人」
「税理士補助1人」
の合計2名の事務所があったとしても、それだけでは税理士法人を設立することはできません。
必要なのは、2人の税理士が「社員」となることです。
逆に、
「社員税理士2人」
「所属税理士1人」
「税理士補助5人」
という事務所であれば、所員数が8人になりますが、社員税理士2人という要件を満たすことになります。
このように、税理士法人の条件を考えるときは「事務所に何人いるか」ではなく、「そのうち何人が社員税理士なのか」に注目する必要があります。
税理士法人にするタイミングはいつがいい?
「税理士法人にするなら、事務所の規模が何人くらいになってからがよいのか」と考える人もいるでしょう。
しかし、これについて一律の正解があるわけではありません。
例えば、
- 共同経営する税理士がいる
- 後継者となる税理士がいる
- 事業規模をさらに拡大したい
- 複数地域へ展開したい
- 将来的な事業承継を考えている
といった事情がある場合には、法人化を検討する意味が出てきます。
一方で、所長税理士一人で事務所を運営し、今後も個人事務所としての経営を続けていくのであれば、無理に法人化する必要があるとは限りません。
つまり、「何人になったら法人化するか」ではなく、「これからどのような税理士事務所を作っていきたいのか」を基準に考えることが重要です。
税理士法人にすると所長税理士はどう変わる?
個人事務所から税理士法人に移行すると、所長税理士の立場も変わります。
個人事務所の場合は、基本的に所長である税理士自身が事務所の経営主体となります。
一方、税理士法人では、複数の社員税理士が法人の構成員となります。
そのため、「所長がすべてを決める」という形から、複数の社員によって法人を運営する形へ変わっていくことになります。
この変化は、事務所が大きくなるにつれて特に重要になります。
「誰が経営判断をするのか」
「社員間で利益をどう考えるのか」
「顧問先をどのように分担するのか」
「後継者をどう育てるのか」
など、個人事務所にはなかった問題について、社員税理士同士でルールを決める必要が出てきます。
税理士法人の設立では「人数」以外も確認が必要
税理士法人を設立するためには、社員税理士を2人以上そろえるだけで終わりではありません。
定款の作成や登記、税理士会への届出など、所定の手続きが必要になります。
国税庁によると、税理士法人は設立の登記によって成立し、成立の日から2週間以内に、税理士会を経由して日本税理士会連合会へ設立の届出を行うこととされています。
また、個人事務所から税理士法人へ移行する場合には、
- 顧問契約をどう引き継ぐのか
- 職員の雇用関係をどうするのか
- 事務所の設備や契約をどうするのか
- 銀行口座や請求関係をどうするのか
- 既存顧客へどのように案内するのか
など、実務上の準備も必要になります。
そのため、法人化を検討する場合は、税理士会や司法書士など、必要に応じて専門家へ確認しながら手続きを進めることが大切です。
税理士法人は「人数が増えたから作るもの」ではない
税理士法人について考える際には、「所員が増えたから法人化する」という考え方だけにとらわれないことも重要です。
税理士法人には、複数の税理士が経営に参加できることや、組織として事業を継続しやすくなる側面があります。
一方で、社員税理士が複数必要になるため、社員の退職や引退によって組織運営に影響が出る可能性もあります。
また、複数の社員による意思決定が必要になるため、個人事務所とは違った経営上の調整も必要です。
そのため、税理士法人にするかどうかは、人数ではなく、事務所の将来像から逆算して考えることが大切です。
まとめ
「税理士事務所は所員何名から税理士法人になるのか」という疑問に対する答えは、所員数による明確な基準はなく、税理士法人を設立するには原則として2人以上の社員税理士が必要というものです。
ここでいう「社員」は一般的な意味での従業員ではなく、税理士法人の構成員となる税理士を指します。
そのため、「税理士1人+職員10人」の事務所は、人数だけを理由として税理士法人になるわけではありません。
一方、「社員税理士2人+職員数名」という小規模な事務所でも、要件を満たせば税理士法人を設立することができます。
税理士法人には、複数の税理士による組織運営や事業承継、複数拠点への展開などを考えやすくなるという特徴があります。
その一方で、社員税理士が1人になった場合には注意が必要です。6か月以内に2人以上の状態に戻らなければ、税理士法人は解散することになります。
したがって、税理士法人を設立するときには、現在の人数だけでなく、「10年後、20年後に誰が事務所を経営しているのか」まで考えることが重要です。
単純に所員数が増えたから法人化するのではなく、共同経営、組織拡大、支店展開、事業承継など、自分の税理士事務所を将来どのような形にしていきたいのかを整理したうえで、税理士法人という選択肢を検討するとよいでしょう。
