「税理士事務所を選ぶなら規模の大きい事務所がおすすめ?
税理士事務所への就職や転職を考えるとき、「できるだけ規模の大きい事務所を選んだほうがいいのでは?」と考える人もいるでしょう。
大手税理士法人や中堅規模の税理士法人では、多くの職員が働いており、さまざまな企業や個人の案件を扱っています。
そのため、「教育制度が整っていそう」「大きな案件に関われそう」「キャリアアップしやすそう」といったイメージを持つ人も少なくありません。
一方で、規模が大きいからといって、すべての人にとって働きやすいとは限りません。
大規模な事務所では業務分担が明確になっているため、特定の仕事を深く経験できる一方で、入社直後は定型的な業務が中心になることもあります。
反対に、小規模な税理士事務所では、一人の職員が幅広い業務を担当し、顧客対応から決算、税務申告まで多くの経験を積めるケースがあります。
つまり、税理士事務所は規模の大きさだけで選ぶのではなく、自分がどのようなキャリアを目指しているのかによって選ぶことが重要です。
ここでは、大規模な税理士事務所で働くメリット・デメリット、小規模事務所との違い、どのような人に大規模事務所が向いているのかについて詳しく解説します。
大規模な税理士事務所とは?
税理士事務所には、税理士1人と数名のスタッフで運営している小規模な事務所から、数十人、数百人規模の職員を抱える税理士法人まで、さまざまな規模があります。
ただし、「大規模」「中規模」「小規模」に明確な統一基準があるわけではありません。
一般的には、複数の税理士や多数の職員を抱え、法人として組織的に運営されている税理士法人などが、大規模な事務所としてイメージされることが多いでしょう。
大規模な税理士事務所では、
- 法人税務
- 相続・資産税
- 事業承継
- M&A
- 国際税務
- 経営コンサルティング
- 医療・介護などの業種特化型支援
など、複数の専門分野を扱っているケースがあります。
そのため、税理士業界で専門性を高めたい人にとっては、幅広いキャリアの選択肢を持ちやすい点が特徴です。
規模の大きい税理士事務所で働くメリット
では、大規模な税理士事務所には具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
教育・研修制度が整っている場合がある
規模の大きい税理士法人では、職員数が多いことから、業務を標準化するための研修や教育制度を整えているケースがあります。
例えば、
- 新人研修
- 税務研修
- 会計ソフトの研修
- 管理職研修
- 専門分野別の勉強会
などです。
もちろん、すべての大規模事務所に充実した研修制度があるわけではありません。
しかし、所長税理士が直接OJTを行う小規模事務所と比べると、一定の教育プログラムが用意されている場合があります。
未経験から税理士業界に入る人にとっては、仕事を体系的に覚えるきっかけを作りやすいでしょう。
さまざまな案件を経験できる
大規模な事務所では顧問先の数も多く、さまざまな業種・規模の企業を担当しているケースがあります。
例えば、
- 中小企業
- 上場企業関連会社
- 医療法人
- 不動産会社
- IT企業
- 建設会社
- 相続案件
など、幅広い案件に触れる機会があります。
一つの業界だけでなく、複数の業種を経験したい人にとってはメリットになります。
また、部署ごとに専門分野が分かれている事務所であれば、自分の興味に合った分野へ異動できる場合もあります。
専門性の高い仕事に挑戦しやすい
大規模な税理士法人では、一般的な税務顧問だけでなく、専門部署を設けていることがあります。
例えば、
「相続・資産税部門」
「事業承継部門」
「M&A部門」
「国際税務部門」
「法人税務部門」
などです。
小規模事務所では、所長や限られた税理士が幅広く担当することも多い一方、大規模事務所では特定分野を専門的に扱う環境が用意されている場合があります。
将来的に、
「相続税に強い税理士になりたい」
「M&Aの専門家になりたい」
「大企業の税務に携わりたい」
といった明確な目標がある人には、専門部署の存在は大きなメリットになります。
キャリアパスが分かりやすい場合がある
大規模な組織では、職員の役職やキャリアステップが明確に設定されていることがあります。
例えば、
「スタッフ」
↓
「シニアスタッフ」
↓
「マネージャー」
↓
「パートナー」
といったように、経験や実績に応じて役職が上がっていく仕組みです。
もちろん事務所ごとに制度は異なりますが、個人事務所と比較すると、昇格基準や役割が明確になっていることがあります。
「何をできるようになれば次の役職に進めるのか」が分かりやすければ、長期的なキャリアプランも立てやすくなります。
大きな案件に関われる可能性がある
大規模な税理士法人では、売上規模の大きな企業や、複雑な税務案件を扱っている場合があります。
例えば、
- 企業グループの税務
- 組織再編
- M&A
- 事業承継
- 相続・資産税
- 国際税務
などです。
こうした案件は、一般的な中小企業の顧問業務とは異なる専門知識が必要になるため、将来的に専門家としての市場価値を高めたい人にとって経験になる可能性があります。
大規模な税理士事務所のデメリット
一方で、規模が大きいことにはデメリットもあります。
業務が細分化されていることがある
大規模事務所では、効率的に仕事を進めるため、担当業務が細かく分かれている場合があります。
例えば、
「記帳だけを担当する」
「申告書の作成だけを担当する」
「顧客対応は別の担当者が行う」
という形です。
これは専門性を高めるうえではメリットになりますが、「顧客対応から決算・申告まですべて経験したい」という人にとっては物足りなく感じる可能性があります。
税理士として独立したい人にとっては、顧客との関係構築や営業などを経験できるかどうかも重要です。
自分の仕事が会社全体のどこにつながっているか分かりにくい場合がある
組織が大きくなると、業務が細分化されます。
その結果、
「自分はこの作業をしているけれど、最終的に誰が顧客と話すのか分からない」
という状況になることもあります。
もちろん、これは組織として効率的に動くための仕組みでもあります。
しかし、税務業務全体を一通り経験したい人にとっては、仕事の幅が狭く感じられることがあります。
所長税理士との距離が遠い場合がある
小規模な税理士事務所では、所長税理士と直接話しながら仕事をする機会も少なくありません。
一方、大規模法人では、部長やマネージャーなどを通じて指示を受けるケースもあります。
そのため、
「経営者から直接仕事を学びたい」
「所長税理士の考え方を間近で学びたい」
という人にとっては、小規模事務所のほうが合っている場合もあります。
組織内のルールが多い
大きな組織では、業務手順や社内ルール、承認フローなどが細かく設定されていることがあります。
これは品質の安定やミスの防止につながる一方で、
「自分の判断ですぐ動きたい」
「柔軟な働き方をしたい」
という人にとっては、窮屈に感じられる可能性があります。
小規模な税理士事務所で働くメリット
では、大規模事務所とは反対に、小規模な税理士事務所にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
幅広い業務を経験しやすい
小規模事務所では、限られた人数で多くの顧客を担当するため、一人の職員が幅広い仕事を任されることがあります。
例えば、
- 記帳
- 試算表作成
- 決算
- 申告書作成
- 顧客訪問
- 税務相談
- 年末調整
- 確定申告
などを一通り経験できる場合があります。
将来的に独立開業を目指している人にとっては、実務を広く経験できることが大きなメリットになります。
経営者との距離が近い
小規模な税理士事務所では、所長税理士が自ら顧客訪問を行い、その横で職員が仕事を覚えるケースもあります。
そのため、
「経営者との話し方」
「税務の説明方法」
「顧客との信頼関係の築き方」
などを間近で学べる可能性があります。
税理士を目指している人にとっては、資格試験だけでは学びにくい実践的な能力を身につける機会になります。
仕事を任せてもらえるまでが早い場合がある
小規模事務所では、職員数が少ないため、入社後比較的早い段階から担当顧客を持つケースもあります。
もちろん事務所によって異なりますが、
「早く実務経験を積みたい」
「顧客と直接やり取りしたい」
という人には向いている可能性があります。
小規模事務所にもデメリットはある
小規模な税理士事務所にも注意点があります。
例えば、
- 教育制度が整っていない場合がある
- 体系的な研修を受けにくい場合がある
- 担当者によって業務量が大きく違うことがある
- 昇給・昇格制度が明確ではないことがある
- 大規模案件を経験する機会が少ない場合がある
などです。
特に未経験者の場合、「先輩の仕事を見ながら覚える」という教育方法になることもあります。
その環境が合う人もいれば、研修を受けながら段階的に仕事を覚えたい人には合わない場合があります。
大規模事務所と小規模事務所、どちらがおすすめ?
ここまで比較してきましたが、単純に「大規模事務所のほうがおすすめ」とはいえません。
大切なのは、自分が税理士事務所で何を身につけたいのかです。
例えば、大規模事務所が向いている可能性があるのは、
- 専門分野を深く学びたい
- 組織的な教育を受けたい
- 大企業や大型案件に携わりたい
- 明確なキャリアパスを求めている
- 将来的に管理職を目指したい
といった人です。
一方、小規模事務所が向いている可能性があるのは、
- 幅広い税務実務を経験したい
- 早く担当顧客を持ちたい
- 経営者と直接話す経験を積みたい
- 将来的に独立開業したい
- 所長税理士から直接学びたい
といった人です。
「大手だから安心」と考えないことも重要
税理士事務所への就職・転職で注意したいのが、「大手だから教育や待遇が良いはず」と考えてしまうことです。
確かに、大規模な税理士法人では研修制度や福利厚生が整っているケースがあります。
しかし、同じ大規模法人でも、部署や上司、担当業務によって働き方が変わることがあります。
また、給与水準が高くても業務が限定されていて、思っていたような経験を積めないケースも考えられます。
そのため、事務所の規模は一つの判断材料として考えつつ、「実際にどのような仕事を担当できるのか」を必ず確認することが重要です。
税理士試験受験生は「勉強との両立」も考える
税理士試験を受験しながら働く人にとっては、事務所の規模よりも「試験勉強と仕事を両立しやすいか」という点が重要になることがあります。
例えば、
- 試験前に休暇を取りやすいか
- 残業がどの程度あるか
- 繁忙期以外の勤務時間はどうか
- 資格取得支援制度があるか
- 試験休暇があるか
などです。
大規模事務所では資格取得支援制度が整っているケースがありますが、小規模事務所でも、所長の理解があり柔軟に勤務時間を調整してくれる場合があります。
そのため、「大手だから税理士試験との両立がしやすい」と決めつけず、実際の勤務条件を確認することが大切です。
独立開業を目指すなら事務所の規模だけで決めない
将来的に税理士として独立したい人は、大規模事務所と小規模事務所のどちらがよいのか悩むかもしれません。
独立を目指す場合には、
「税務申告ができる」
「顧客と話せる」
「営業ができる」
「料金設定ができる」
「経営者から相談を受けられる」
といった幅広い能力が必要になります。
そのため、業務が細かく分業されている大規模事務所では、高度な専門業務を経験できる一方で、顧客対応や営業、事務所経営について学ぶ機会が少ない場合があります。
一方、小規模事務所では、所長税理士の仕事を間近で見ながら、顧客対応や経営について学べる可能性があります。
独立志向が強いのであれば、「独立後に必要となる仕事をどこまで経験できるか」という視点で事務所を選ぶとよいでしょう。
大規模事務所でも「配属先」を確認しよう
大きな税理士法人への転職を考える場合は、法人全体だけを見ないことも重要です。
同じ法人の中でも、
「法人税務部門」
「相続部門」
「事業承継・M&A部門」
「国際税務部門」
など、仕事内容が大きく異なる場合があります。
また、入社後すぐに希望部署へ配属されるとは限りません。
そのため、面接時には、
- どの部署に配属されるのか
- 希望部署への異動は可能か
- 顧客対応を担当できるのか
- 専門業務に携われるのか
- 将来的な異動制度はあるのか
などを確認しておくとよいでしょう。
転職先を選ぶなら「3年後」をイメージする
税理士事務所を選ぶときは、入社時の給与や知名度だけで判断するのではなく、3年後、5年後にどのような仕事ができるようになっているかを考えることが重要です。
例えば、
「3年後に20~30件の顧客を担当する」
「相続税申告を専門的に経験する」
「M&A案件に関われるようになる」
「税理士試験の科目合格を増やす」
「マネージャーになる」
「独立開業に必要な実務を経験する」
など、自分の目標を設定します。
その目標に近づける事務所であれば、現在の規模にかかわらず、良い転職先になる可能性があります。
税理士事務所選びで確認したいポイント
規模以外にも、転職前には次のような点を確認しておきましょう。
- 担当する顧客の規模・業種
- 記帳から申告まで一貫して担当できるか
- 顧客との面談機会があるか
- 専門分野を身につけられるか
- 資格取得を支援しているか
- 残業や繁忙期の勤務状況
- 給与・賞与・昇給制度
- 将来的な役職やキャリアパス
特に重要なのは、求人票だけでは分からない「実際の仕事内容」です。
面接では、「入社後半年ではどんな仕事をするのか」「3年目にはどこまで任せてもらえるのか」など、具体的に質問してみるとよいでしょう。
まとめ
税理士事務所を選ぶ際、「規模の大きい事務所のほうがおすすめなのか」と考える人は多いでしょう。
しかし、大規模だから良い、小規模だから悪いという単純な話ではありません。
大規模な税理士事務所には、研修制度が整っている、専門部署がある、大型案件に携われる、キャリアパスが明確といったメリットがあります。
一方で、業務が細分化されていることがあり、入社後しばらくは担当できる仕事が限定される可能性もあります。
反対に、小規模事務所では、記帳から決算・申告、顧客対応まで幅広い業務を経験できる場合があります。所長税理士との距離も近く、将来的に独立開業を目指す人にとって実践的な経験を積みやすい環境も考えられます。
そのため、税理士事務所への就職・転職では、「事務所の規模」よりも「そこで何を経験できるのか」を重視することが大切です。
専門性を深めたいのか、幅広い税務実務を覚えたいのか、将来的に独立したいのか、管理職を目指したいのかによって、向いている事務所は変わってきます。
また、税理士試験を受験している人であれば、勉強との両立ができるかどうかも重要なポイントです。
最終的には、「大規模事務所だから」という理由だけで決めるのではなく、自分が3年後、5年後にどのような税理士・税務会計スタッフになっていたいのかを考え、そのキャリアを実現しやすい事務所を選ぶことが重要になるでしょう。
