M&Aに税理士は必要?売却・買収で税理士に依頼できることを徹底解説
M&Aを行う際、税理士への相談は法律上必須というわけではありません。しかし、税金の負担やM&A後の資金繰りまで考えるのであれば、税理士に相談することをおすすめします。
M&Aでは、単に「いくらで会社を売買するか」だけでなく、どのような方法でM&Aを実施するのかによって税金が変わります。
代表的な方法として、会社の株式を売却する「株式譲渡」と、特定の事業や資産を売却する「事業譲渡」があります。
例えば、オーナー経営者が保有する株式を売却する場合、株式の譲渡益について所得税の申告分離課税が適用されます。2026年4月1日現在の国税庁の案内では、一般株式等の譲渡所得等について所得税15%・住民税5%が基本となり、復興特別所得税も加わります。 ([国税庁](https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm))
一方、事業譲渡では、譲渡する資産の種類などによって消費税の課税関係も検討する必要があります。事業用の建物や機械、備品、無体財産権などの譲渡は、消費税の課税対象となる場合があります。 ([国税庁](https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6145.htm))
このように、M&Aの方法を決める段階から税務を考えておかなければ、後から「想定していたより税金が高かった」という事態になりかねません。
M&Aで税理士に依頼できること
M&Aにおいて税理士へ依頼できる内容は、M&A前の準備からM&A後の税務処理まで多岐にわたります。
株式譲渡と事業譲渡の税金を比較する
M&Aの初期段階で税理士に相談したいのが、M&Aスキームごとの税負担の比較です。
株式譲渡では、売り手である株主が株式を売却するため、個人オーナーであれば株式の譲渡所得に対する課税を検討します。
一方、事業譲渡では、会社が事業に関連する資産などを売却する形になるため、法人税や消費税などを考慮する必要があります。
そのため、「買い手が希望しているから事業譲渡にする」と決めるのではなく、税務面からも両方の方法を比較することが大切です。
税理士であれば、想定される売却価格や会社の資産・負債などをもとに、M&Aの方法によって税引後の手取り額がどの程度変わるのかを試算できます。
M&Aによる税金をシミュレーションする
M&Aでは「1億円で会社を売却できた」としても、1億円がそのままオーナーの手元に残るわけではありません。
売却方法、株式の取得価額、売却にかかった費用などによって課税される所得が変わります。
国税庁によると、株式等の譲渡所得等は、基本的に譲渡価額から取得費や売却手数料などを差し引いて計算します。 ([国税庁](https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1464.htm))
そのため税理士には、
- 売却前の税金はいくらになるか
- M&A後に手元にいくら残るか
- 株式譲渡と事業譲渡で差があるか
- M&A後に会社側へどの程度資金を残せるか
などをシミュレーションしてもらうことができます。
自社株の評価を税務面から確認する
中小企業のM&Aでは、非上場会社の株式を売買するケースも少なくありません。
非上場株式には市場価格が存在しないため、「会社の株式はいくらなのか」を適切に評価することが重要になります。
M&Aにおける企業価値の算定方法には、さまざまな考え方があります。税理士は、財務諸表や法人税申告書などを確認しながら、税務上の株式評価や譲渡時の税負担を踏まえたアドバイスを行うことができます。
ただし、M&Aにおける企業価値は税務上の株式評価だけで決まるものではありません。将来の収益力や事業の成長性、類似企業の取引事例なども価格に影響するため、M&A全体の企業価値評価については、M&Aアドバイザーや公認会計士などと連携するケースもあります。
役員退職金について検討する
M&Aを機に、オーナー社長が経営から退くケースもあります。
その場合には、株式譲渡とは別に、役員退職金の支給を検討することがあります。
役員退職金は、適切な要件を満たしていれば会社側の損金に算入できる可能性があるため、M&A全体の資金移動を考えるうえで重要な論点です。
ただし、役員に対する給与については、不相当に高額な部分などが損金に算入されないルールがあります。 ([国税庁](https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm))
したがって、「M&A直前にできるだけ多く退職金を支給すれば節税できる」と単純に考えるのは危険です。
在任期間や会社への貢献、一般的な支給水準などを踏まえて、税務上適切な金額を検討する必要があります。
税務デューデリジェンスを行う
買い手側が特に重視したいのが、税務デューデリジェンスです。
M&Aでは、決算書に表れている数字だけではなく、過去の税務処理に問題がないかを確認することも重要です。
例えば、
- 過去の法人税・消費税の申告に問題がないか
- 税務調査で指摘された事項がないか
- 役員貸付金などに税務上の問題がないか
- 未払税金などの隠れた負担がないか
- 繰越欠損金などの税務上の情報をどう扱うか
などを確認します。
M&A後に大きな税務上の問題が判明すると、買収後の資金繰りや収益計画に影響する可能性があります。
そのため、買い手側の税理士には、「この会社を買っても税務上大きな問題がないか」という視点からチェックしてもらうことが重要です。
売り手側が税理士に相談するメリット
M&Aで会社を売却する側にとって、税理士へ相談する大きなメリットは「売却後にいくら残るのか」を事前に把握できることです。
M&Aでは、売却価格だけを見て「1億円で売れるから成功」と考えてしまいがちですが、実際には税金やM&Aにかかった費用などを差し引いて考える必要があります。
例えば、株式譲渡によって得られる譲渡益については、取得費や譲渡費用を踏まえて課税所得を計算します。 ([国税庁](https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm))
税理士に相談しておけば、M&Aの交渉段階で税引後の手取り額を確認しながら、希望する売却価格を考えることができます。
また、経営者の退任、役員退職金、会社に残す資産なども含めて事前に整理できるため、M&A後の生活設計を考えるうえでも役立ちます。
買い手側が税理士に相談するメリット
買い手側では、M&Aの実行そのものだけではなく、買収後にどのように税務・会計処理を行うのかという視点が重要です。
特に、複数の会社を買収してグループ化していく企業では、M&Aのたびに税務上の検討事項が発生します。
また、中小企業のM&Aを支援する税制として「中小企業事業再編投資損失準備金」があります。
中小企業庁によると、経営力向上計画など一定の要件を満たしてM&Aを実施した場合、株式取得価額の一定割合を準備金として積み立て、損金算入できる制度があります。さらに、一定の認定を受けた中堅・中小企業が複数回M&Aを行う場合には、積立割合や据置期間を拡充した仕組みもあります。 ([中小企業庁](https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/business_succession_support_measures.html))
ただし、この制度は単純にM&Aをすれば利用できるものではなく、対象企業や計画認定などの要件があります。
そのため、M&Aの契約を進める前に、税理士へ適用可能性を確認しておくことが大切です。
M&A後の税務・会計も税理士に依頼できる
税理士の役割は、M&A契約を締結するまでで終わりではありません。
むしろ、M&Aの実行後には新しい会社関係や資産構成などに応じた税務・会計処理が必要になるため、継続的なサポートが重要になります。
例えば、
- M&A後の会計処理
- 法人税・消費税などの申告
- 取得した資産の税務処理
- 役員報酬や給与に関する税務
- グループ会社間の取引確認
- 税務調査への対応
などを依頼できます。
特に事業譲渡では、事業用設備や機械、建物、無体財産権など個々の資産について消費税の課税関係を確認する必要があります。 ([国税庁](https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6145.htm))
そのため、M&A後の経理処理まで含めて対応できる税理士を選んでおくと安心です。
M&Aでは税理士だけに任せればいい?
ここまで説明したように、M&Aでは税理士が重要な役割を担います。
しかし、M&Aに関するすべての業務を税理士だけに任せればよいわけではありません。
M&Aでは、税務だけでなく、法律、企業価値、契約、労務などさまざまな専門分野が関係します。
例えば、次のように専門家ごとに役割が異なります。
| 専門家 | 主な役割 |
|---|---|
| 税理士 | 税務相談、税額シミュレーション、税務DD、申告、M&Aスキームの税務面の検討など |
| M&A仲介会社・FA | 相手先探し、M&Aの交渉支援、取引全体の進行支援など |
| 弁護士 | 契約書、法務DD、法的リスクの確認など |
| 公認会計士 | 財務DD、財務面からの企業価値評価など |
| 社会保険労務士 | 従業員の労務関係や社会保険に関する確認など |
M&Aを安全に進めるためには、それぞれの専門家が持つ専門性を組み合わせることが重要です。
税理士には「税務の専門家」として関与してもらい、必要に応じて弁護士やM&Aアドバイザーなどと連携してもらうとよいでしょう。
M&Aに強い税理士の選び方
M&Aを税理士に相談する場合、普段の税務申告を依頼している税理士だからといって、そのままM&Aも任せられるとは限りません。
M&Aには通常の顧問業務とは異なる専門知識が必要となるため、以下のような点を確認しておきましょう。
M&Aの支援実績があるか
最も確認したいのが、実際にM&Aを支援した経験があるかどうかです。
税理士事務所によっては法人税申告や記帳代行を中心としており、M&Aの経験がほとんどない場合もあります。
「M&Aの実績はあるか」「売り手と買い手のどちらを支援した経験が多いか」「税務DDに対応できるか」などを確認するとよいでしょう。
事業承継にも詳しいか
中小企業のM&Aでは、単純な会社売却というよりも、後継者不足を背景とした事業承継の意味合いが強いケースがあります。
そのため、M&Aだけでなく、事業承継や相続、非上場株式の評価などにも詳しい税理士であれば、経営者個人の資産承継まで含めて相談しやすくなります。
他の専門家と連携できるか
M&Aには税務以外にも法律や財務などの問題が関係するため、他の専門家と連携できる税理士を選ぶことも重要です。
弁護士や公認会計士、M&A仲介会社などとのネットワークがあれば、必要な場面で専門家につないでもらえる可能性があります。
M&A後も顧問税理士として対応できるか
M&A前だけではなく、M&A後まで継続して相談できるかも確認しておきましょう。
会社を買収した場合には、M&A後の会計処理や税務申告、グループ会社間の取引などについて新たな対応が必要になることがあります。
売却側でも、会社売却によって得た資金について、個人の所得税や相続対策などを検討する場合があります。
M&Aを一時的な取引としてではなく、その後の経営や資産形成まで考えてくれる税理士を選ぶとよいでしょう。
M&Aの税理士への相談はいつから始めるべき?
M&Aについて税理士に相談するタイミングは、M&Aの相手先が決まってからではなく、M&Aを検討し始めた段階がおすすめです。
M&Aの手法を決定した後では、税務上より有利な方法に変更することが難しくなるケースがあるためです。
例えば、
- 会社を株式譲渡するのか事業譲渡するのか
- 経営者はM&A後に退任するのか
- 役員退職金を支給するのか
- 会社に残す資産をどうするのか
- M&A関連の税制を利用できるのか
といった点は、契約前から検討しておくことが大切です。
特に買い手側では、税制上の優遇措置について事前に確認しておかなければ、M&A実行後に「あの制度を使っておけばよかった」となる可能性があります。
M&Aの税理士相談で準備しておきたい資料
税理士に相談するときは、会社の現在の状況が分かる資料をできるだけ準備しておきましょう。
代表的なものとしては、
- 直近数期分の決算書
- 法人税・消費税の申告書
- 株主名簿
- 固定資産の一覧
- 借入金の一覧
- 役員報酬の資料
- M&Aの希望条件
- 買収候補・売却候補に関する資料
などがあります。
すでにM&A仲介会社などから企業価値評価や提案資料を受け取っている場合には、それらも税理士に見てもらうとよいでしょう。
税務面から内容を確認してもらうことで、「提示された売却価格で売った場合の税金はいくらなのか」といった具体的な判断がしやすくなります。
まとめ
M&Aを行う際、税理士への相談は法律上必須ではありません。しかし、M&Aでは株式譲渡や事業譲渡などのスキームによって税務上の取り扱いが変わるため、税金まで含めてM&Aを成功させたいのであれば、税理士を活用するメリットは大きいといえます。
売り手側では、株式譲渡による税金の計算、事業譲渡との比較、役員退職金の検討、M&A後の資産形成などについて相談できます。
買い手側では、税務デューデリジェンスやM&A後の税務処理に加え、中小企業事業再編投資損失準備金などの制度を利用できる可能性があります。 ([中小企業庁](https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/business_succession_support_measures.html))
ただし、M&Aは税務だけで完結するものではありません。契約や法務、財務、労務などさまざまな専門分野が関係するため、税理士を中心に必要な専門家と連携しながら進めることが重要です。
「M&Aの話が具体的になってから税理士に相談する」のではなく、M&Aを検討し始めた段階で税務面のシミュレーションを行っておくことが、M&A後の思わぬ税負担を避けるためのポイントです。
