【2026年最新版】M&Aの節税対策とは?売り手・買い手別に税金を抑える方法を解説
M&Aの節税対策は「売り手」と「買い手」で異なる
M&Aでは、「会社を売却する側」と「会社や事業を買収する側」の双方に税金が発生する可能性があります。
そのため、M&Aの節税対策を考える際には、まず自社が売り手なのか買い手なのかを明確にする必要があります。
特に重要なのが、株式譲渡と事業譲渡のどちらを選ぶかです。
株式譲渡では会社の株主が変わることで会社そのものが引き継がれるのに対し、事業譲渡では特定の事業や資産などを個別に譲り渡します。
同じM&Aでも課税関係が大きく異なるため、契約条件だけでなく税務面まで考慮してスキームを決定することが重要です。
M&Aで特に重要な「株式譲渡」と「事業譲渡」の違い
M&Aの節税対策を考えるうえでは、まず代表的な2つの手法を理解しておきましょう。
株式譲渡
株式譲渡は、会社の株主が保有する株式を買い手に売却する方法です。
会社自体はそのまま存続し、株主だけが変わるため、中小企業のM&Aでは比較的よく利用される方法です。
売り手が個人株主の場合、非上場会社の株式を譲渡して得た利益は、一般株式等に係る譲渡所得として課税されます。一般株式等の譲渡所得の税率は、所得税・住民税を合わせて20%で、これに復興特別所得税が加わるため、実質的には20.315%となります。
また、株式の譲渡は消費税の非課税取引です。M&Aにおいて株式譲渡を選択する場合、事業譲渡のように個々の資産について消費税の課税関係を検討する必要がない点も特徴です。
事業譲渡
事業譲渡は、会社そのものではなく、事業に必要な資産や契約、設備、営業権などを選択して譲渡する方法です。
売り手側では、譲渡した資産などから生じる利益について法人税等の課税関係が生じるほか、課税対象となる資産の譲渡については消費税も考慮する必要があります。国税庁によると、事業用設備や機械、備品、無形財産権などの譲渡は、一定の要件のもとで消費税の課税対象となります。
一方、買い手にとっては、事業譲渡によって取得した資産や税務上の「資産調整勘定」などの処理が、将来の損金算入に影響する場合があります。
このため、売り手に有利な方法と買い手に有利な方法が一致するとは限りません。
売り手側が検討したいM&Aの節税対策
会社や事業を売却する側では、単純に「売却価格を高くする」だけではなく、最終的に手元に残る金額を意識することが大切です。
株式譲渡と事業譲渡の税負担を比較する
最も基本的な節税対策は、M&Aの実行方法を税務面から比較することです。
例えば、オーナー経営者が保有する自社株を売却する株式譲渡では、個人株主に対して譲渡所得課税が行われます。
一方、法人が事業そのものを売却する事業譲渡では、売却益に対する法人税等だけでなく、譲渡対象資産によっては消費税の問題も生じます。
したがって、「株式譲渡のほうが必ず節税になる」「事業譲渡のほうが税金が安い」と一概にはいえません。
売却価格、株主構成、会社が保有する資産、含み益、借入金などを総合的に比較する必要があります。
役員退職金を活用する
M&Aを機にオーナー経営者が役員を退任する場合には、役員退職給与の支給を検討するケースがあります。
退職金は、株式の売却代金とは税務上の扱いが異なるため、適切に設計できればオーナー側の税負担を抑えられる可能性があります。
ただし、退職金であれば何でも経費として認められるわけではありません。法人が役員に支給する退職給与については、不相当に高額な部分は損金に算入されないなどのルールがあります。
そのため、在任期間や役員としての功績、会社の規模、同業他社の支給水準などを考慮し、妥当な金額を設定することが重要です。
また、M&A契約の内容によっては、退職金をどのタイミングで、誰から誰に支給するのかが重要になるため、M&Aの初期段階から税理士に相談することをおすすめします。
M&A前に会社の税務上の問題を整理する
M&Aの直前になって過去の税務処理に問題が見つかると、売却価格の減額や契約条件の変更につながることがあります。
例えば、次のような項目は事前に確認しておきたいポイントです。
- 過去の法人税・消費税の申告内容
- 役員貸付金や役員借入金の有無
- 未計上の債務や偶発債務
- 固定資産の簿価と実際の価値
- 過去の税務調査で指摘された事項
これは直接的な「税率を下げる節税」ではありませんが、M&Aの条件を不利にしないための重要な税務対策です。
買い手側が検討したいM&Aの節税対策
M&Aで会社や事業を買収する側では、買収後の税負担をどのように抑えるかという視点が重要になります。
中小企業事業再編投資損失準備金を活用する
中小企業が検討したい代表的なM&A関連の税制として、中小企業事業再編投資損失準備金があります。
これは、経営力向上計画の認定を受けた中小企業などが、計画に基づいてM&Aを行った場合に、一定額を準備金として積み立て、その積立額を損金算入できる制度です。中小企業庁もM&Aを支援する税制の一つとして案内しています。
現在の制度では、通常の制度を利用する場合、M&Aによる株式取得価額の70%までを準備金として積み立てることができ、原則として5年間の据置期間が設けられています。
さらに、過去5年以内に一定のM&A実績がある中堅・中小企業が、特別事業再編計画の認定を受けて複数回のM&Aを行う場合には、いわゆる「中堅・中小グループ化税制」により、認定計画内の1回目は株式取得価額の90%、2回目以降は100%まで準備金を積み立てられる仕組みがあります。据置期間は10年間です。
ただし、これは永久的に税金が免除される制度ではありません。据置期間経過後などに準備金を取り崩して益金に算入する仕組みであるため、「今期の税金を減らし、その後の事業年度に分散して課税を受ける制度」と理解することが大切です。
M&A後の「のれん」を税務面から確認する
事業譲渡や一定の組織再編では、買収価格と取得した純資産の価額との差額について、税務上「資産調整勘定」が生じることがあります。
この資産調整勘定は、税務上のいわゆる「のれん」に近い性質を持つもので、原則として5年間、60か月にわたって均等に減額され、その金額が損金算入される仕組みです。
そのため、買い手側では「買収価格がいくらか」だけでなく、買収価格が税務上どのような資産・負債の取得額として整理されるのかを確認することが重要です。
一方、株式譲渡では、買収した会社の株式を取得するため、買収企業の単体税務上で事業譲渡と同じような資産調整勘定が生じるわけではありません。
つまり、M&Aのスキームによって買い手側の将来の損金算入の機会も変わるため、契約前に税務シミュレーションを行う必要があります。
M&Aの節税対策で注意したいポイント
M&Aでは税金を抑えることが重要ですが、節税だけを目的にスキームを決定するのはおすすめできません。
税金だけでM&Aの方法を決めない
例えば、税務上有利に見える方法でも、買い手が希望する契約や許認可の承継が難しくなる可能性があります。
特に事業譲渡では、契約や資産などを個別に移転させる必要があるため、株式譲渡よりも手続きが複雑になるケースがあります。
そのため、
- 税金
- 会社・事業の承継方法
- 契約・許認可の承継
- 従業員の処遇
- 簿外債務などのリスク
をまとめて比較する必要があります。
「節税」と「税金の繰り延べ」を区別する
M&A関連の税制には、一定期間の損金算入によって当面の法人税負担を抑える制度があります。
しかし、将来的に準備金の取り崩しなどによって益金算入される場合もあるため、必ずしも最終的な税負担そのものが消えるとは限りません。
M&Aの節税対策を考える場合には、「今期いくら減税できるか」だけでなく、「3年後・5年後・10年後にいくら課税されるか」まで試算することが大切です。
不自然な取引は税務上のリスクになる
税金を抑えるためだけに、通常のM&Aでは考えにくい取引を組み合わせることにも注意が必要です。
法人税法には、一定の場合に法人税の負担を不当に減少させる行為や計算を否認するための規定があります。特に組織再編については、税負担だけを目的として不自然な取引を組み立てることが大きなリスクになります。
そのため、M&Aでは「税金が安くなる方法」ではなく、事業上の合理性があり、そのうえで税務上も適切な方法を選択することが重要です。
M&Aの節税対策は税理士に相談するメリットが大きい
M&Aでは、通常の法人税申告だけではなく、企業価値評価、株式評価、譲渡所得、退職金、消費税、組織再編税制など、さまざまな税務論点が絡みます。
そのため、M&Aを検討している企業は、できるだけ早い段階でM&Aに詳しい税理士へ相談することをおすすめします。
税理士に相談することで、例えば次のような検討が可能になります。
- 株式譲渡と事業譲渡の税負担比較
- M&A前後の税額シミュレーション
- 役員退職金の設計
- 中小企業事業再編投資損失準備金の適用可否確認
- 資産調整勘定などM&A後の税務処理の確認
- M&Aに伴う消費税・法人税・所得税の確認
- 株式評価や企業価値に関する税務面からの助言
特に重要なのは、M&A契約を締結した後では変更が難しい事項が多いことです。
「税金についてはM&Aが決まってから考えればよい」とするのではなく、候補となるM&Aスキームを比較する段階から税理士を交えて検討したほうが、選択肢を広く持つことができます。
M&Aの節税対策を税理士に相談する際に準備したい資料
初回相談では、できるだけ現在の会社の状況が分かる資料を準備しておくとスムーズです。
- 直近数期分の決算書・法人税申告書
- 株主名簿
- 会社の借入金一覧
- 固定資産の一覧
- 役員構成・役員報酬の資料
- M&Aの希望条件や買収・売却候補に関する資料
売り手であれば「いくらで売りたいのか」だけではなく、「M&A後も会社に残るのか」「経営者は退任するのか」「従業員をどのように引き継ぎたいのか」なども伝えるとよいでしょう。
買い手であれば、取得したい事業の内容や買収予算に加え、M&A後のグループ経営や設備投資などの計画についても税理士に共有することが重要です。
まとめ
M&Aの節税対策には、株式譲渡と事業譲渡の選択、役員退職金の活用、M&A前の税務整理、買い手側の中小企業事業再編投資損失準備金の活用、M&A後の資産調整勘定の確認など、さまざまな方法があります。
ただし、M&Aの税金は取引方法や企業の状況によって大きく変わるため、「この方法なら必ず節税できる」と考えるのは危険です。
特に、税金の一部を将来に繰り延べる制度と、最終的な税負担そのものを軽減する方法は分けて考える必要があります。
M&Aを成功させるためには、売却価格や買収条件だけを見るのではなく、M&Aの前後を含めた税負担をシミュレーションしたうえでスキームを決定することが大切です。
M&Aを検討し始めた段階から、M&Aや事業承継に詳しい税理士へ相談することで、税務面での選択肢を広げながら、より有利で無理のないM&Aを目指せます。
